サッカー日本代表、本田圭佑選手のスパイクの提供元は、日本の大手スポーツブランドの美津濃(ミズノ)です。
ミズノは2009年度の売上高が1487億円と、確かに日本企業では大手かもしれません。しかし、グローバル市場で見た時には、2009年度のナイキの売上高1兆7925億円、アディダスの1兆3519億円に比べると約1/10なので、グローバルスポーツブランドという観点では中小企業です。実際の競争の構図としてもナイキ、アディダスの大企業対そのほかの中小企業となっています。
国際サッカー連盟によると、2006年ドイツ大会のテレビ視聴者数は214カ国?地域、のべ263億人、2008年の北京五輪の視聴者数は47億人とのこと。マーケティング的な観点で言えば、サッカーW杯はスポーツの中では、オリンピックを圧倒的に凌駕するマーケティングの機会です。
当然、サッカーW杯はナイキ、アディダスとも着目しており、大会スポンサーのみならず、有力各国代表、有力選手のスポンサーとしてユニフォームやスパイクの提供などにしのぎを削っています。
ですので、これらの企業の1/10のサイズのミズノが、大会スポンサーや各国代表スポンサーといった大企業と同じ土俵で戦っても勝ち目はありません。
●ミズノの1点張り戦略
そこで、ミズノはカネではなく、頭を使います。
その戦略は、総張りではなく「1点集中突破」と、実績ではなく「これからの可能性への逆張り」です。ミズノは今回のW杯の広告宣伝に際して、本田選手の無回転シュートへの1点賭けという非常に思い切った手段を取りました。
無回転シュートとは、文字通りボールに回転をかけない蹴り方によるシュートで、ボールが無回転になると、ボールが急激に落ちたり、ブレたりと非常に不規則な変化をします。野球のナックルボールと同じものです。本田選手がW杯グループリーグ最終戦のデンマーク戦で決めた先制点は、正にこの無回転シュートによるものでした。
今の本田選手の注目度からは考えられないかもしれませんが、思い出して下さい。ミズノがこの決断をした当時の2008年は、本田選手は代表の選考試合のスターティングメンバーでなかったどころか、召集すらされていませんでした。
しかし、ミズノは「無回転シュートを蹴ろう」というコンセプトで本田選手のキックを分析し、2年がかりで開発した回転のかかりにくい素材のパネルを、無回転シュートを蹴る位置に配置したモデルを中心としたマーケティング、営業を展開しています。大会や有力各国代表のスポンサーシップを獲得するのに比べれば、この開発、マーケティングにかかる費用はかなり少なく済んだことと推測されます。それでも、本田選手のW杯での活躍により、ミズノは普通に日本代表などのオフィシャルスポンサーなどになるよりも、より強力な追い風を得ていることでしょう。
●安全な投資が実はハイリスクローリターンであることも
投資からのリターンは基本的にリスクに応じて決まります。高いリターンを得ようと思えば、それに見合ったリスクを負うか、逆張りで周囲が不当に評価していないものを見出すしかありません。順張りでみんなが評価しているものの中から、高いリターンを得ようとするのは非常に難しいのが実際です。
しかし、一見、安全策と思われるものに投資するのは、リスクが過小評価され、リターンが不当に抑えられていることが多くあり、実はハイリスクローリターンであったりします。財政破たん前の国の国債がこの典型例で、投資ファンド、ヘッジファンドはこうした市場のゆがみに対して、逆張りでさや取りするのが常套手段です。それは、順張りで市場の成長に賭けるより、市場のゆがみを見つけ、それに賭けた方が、手っ取り早く確実にもうかるからです。
逆張りはリスクが高いように見えますが、少ない投資額で大きなリターンを得ることができますので、投資額つまりリスクの総量を抑えることができます。全体のリスク総量の観点からは、逆張りは、同じ額のリターンを求めて多額の資金を1つの安全策に注ぎ込むより、リスクの低い戦略といえます。
資金力が乏しく、大企業のように総張り戦略が取れない中小企業にとっては、商品開発投資、広告宣伝費などのリスクの高いものについては、今回のミズノのように、予算の使い道を絞り込んだ上で重点投資する「1点集中突破」、実績ではなく「これからの可能性への逆張り」が、非常に費用対効果の高い調達戦略です。(中ノ森清訓)
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引用元:arad rmt
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